2014年の1月、夫から「何やらタイチの一種らしいもの」に一緒に参加しないか?というメールが届きました。
その日、彼は合気道の先生と一緒に、練習する場所を探して病院の中を歩き回っていました。ある場所が候補として頭にありました。ところがそこへ行ってみると、先客にアジア人のグループがいて、何かの動きを練習していました。一緒にどうぞ、と誘われ、参加しました。
練習が終わると、合気道の先生は言いました。「あの人たちがやっていた動きは、合気道にも役に立つ」その言葉に、夫は、彼らの週末の練習に参加することにしたのでした。
当時、私は肌のひどい炎症に悩んでいました。肌は、身体の中の異常が姿を表す最後の臓器だと知っていたので、その炎症を何とかしたいと必死でした。西洋医学だけでなく中国医学の助けも借りて、厳しい食事療法をしていました。だから、もう一つ役立ちそうなものがある、と思い、ためらわず「やりたい」と返事しました。
夫と共に、双方にとって新しいことを一緒に始められるのを嬉しく思いました。
これがインテグラルタイチにであった経緯です。気功と太極拳とヨーガを統合したもので、カリフォルニア在住のベトナム人僧侶によって作られたものだ、ということでした。
驚いたことに、二、三週間経つか経たないうちに、体調が良くなり始めました。受講生の一人は、自分の慢性の発作性頭位めまい症が、たった一度やっただけで消えたと言いました。彼が、私を励ますために誇張しているのではなく、本当のことを言っているのは明白でした。私自身がこのタイチの即効性と素晴らしさを体験していたからです。
動きはそれほど激しいものではなく、鍵になるのは、深い腹式呼吸と身体をリラックスさせることのようでしたが、慣れないので、身体を緩めるのはかなり難しいと感じました。動きを真似たり覚えたりするのは、私にとってかなり努力が必要でした。でも私は動きに伴うマントラや、背後にある哲学が気に入りました。一つ一つの動きには精神的な意味が伴っていたからです。
受講生のほとんどがベトナム人という見慣れないグループでしたが、その中にいて違和感はあまり感じませんでした。彼らもまた、私と同じく、祖国をあとにした人たちだからです。互いのカナダにおける資格や体験などを話すことはありませんでしたが、彼らに絆のようなものを感じていました。
ベトナム語を話さない受講生のために、彼らは英語かフランス語に切り替えて話してくれました。英語の場合は、どこか不完全なブロークンの英語。フランス語の場合は、ベトナムがフランス領だったこともあり、祖国でフランス語で教育を受けた人たちの話すのは、流暢なフランス語でした。
日本からの移民である私にとって、英語は大きな問題でした。私には、ネイティブの人たちが話すこと、笑っていることなどが理解できず、よく気まずい思いをしていました。自分の感じることをちゃんと伝えることができないので、いつも挫折感に苛まれ、悲しくなっていました。日本語の訛りや、しょっちゅうおかす間違いが気になります。言葉が流暢でないことで、自分は一人ぼっちだ、まだまだだめだ、と感じ続けていました。
でも、この人たちときたら!インテグラルタイチを伝えたいという情熱で、そういうことは全部克服していたのです!その姿にどれほど勇気づけられたことか!どういうわけか、私は彼らを見て、自分が不完全であっても良いという許可を得たような気持ちになりました。どういうわけか、凡庸でしかない自分を赦し、パッとしないでいることをよしとするようになりました。
彼らを知るようになると、このグループの質の高さに打たれました。どの人も皆オープンで、親しみがもて、人を温かく迎え、思いやり深く、寛大で、世話好きなのです。インストラクターは全員がボランティアで、クラスは無料で提供され、受講生は、場所を借りている場合のみ、場所代を分担するだけです。何と興味をそそられるグループなのでしょう。
9月の終わり頃、このグループはインテグラルタイチの創始者を招いて、一週間のワークショップを開催しました。何についてのワークショップなのか知らなかったものの、その人に会いたいと思いました。これだけ質の高い人たちの先生なのだから、きっと素晴らしい人に違いない、と。でもワークショップが、9月の最終週、私にとって一年で最も忙しい週、私が働ける唯一の時期に重なると知って、ひどくがっかりしました。
ところが、手元に届いた実際の仕事のスケジュールを見ると、土曜日には全く何も入っていません。会いに行ける!私は始発のハイウェイバスに飛び乗ってモントリオールに向かいました。お昼少し前に会場につき、最後の講話の終わりの10分間だけ聞くことができました!
彼は仏教について話していたように思います。日本にいたときに聞き覚えた仏教用語が、英語で言われるのを聞いて感銘を受けました。とても新鮮に感じたのです。子供の頃に学んだ「天にまします」のお祈りを、大人になってから、初めて英語で聞いたときに感じたのと同じ新鮮さでした。新たな発見でした!
その日の午後、私は彼の弟子になりました。その後インテグラルタイチを真剣に学ぶようになり、2017年にインストラクターに認定されました。地元の人たちと一堂に集まって、パンデミックの際にはオンラインで、楽しく実践しています。そして創始者の元で仏教も学んでいます。